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最高裁判所第三小法廷 昭和49年(オ)374号 判決 1974年10月22日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人真砂泰三、同小原邦夫の上告理由第一点及び第二点について。

原判決の認定したところによれば、下薗彰次は、自動車修理業者である被上告人に修理工見習として雇用され、休日を利用して大阪職業訓練所における自動車整備士資格取得のための講習を受け、昼休みに被上告人方の寮へ帰つた際、被上告人の専属的な塗装下請業者である大西照夫所有の本件加害車が工場敷地内に鍵をつけたまま置いてあつたのを見て、これを同人に無断で持ち出し、練習のため道路上を運転中本件事故を起こしたものであるが、下薗は、運転免許をもたず、職務に関して自動車を運転することはなく、右整備士資格取得のための受講も被上告人の指示もしくは勧奨によるものではなく、また、大西は、被上告人の工場内で業務に従事するため、加害車を自己の通勤に使用し、被上告人の業務のため加害車を使用させることはなかつたというのであつて、この事実の認定は、挙示の証拠に照らして是認することができる。そして、原判決認定の事実関係のもとにおいては、本件事故当時の下薗の加害車の運転は、その本来の職務行為でないことはもとより、職務行為の延長ないしはこれと密接な関連を有する行為であるとも認めがたく、外形上も同人の職務の範囲内に属する行為ということはできないとして、被上告人の使用者責任を認めなかつた原判決の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 関根小郷 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己)

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